本来、ファクタリングはサービスを提供する事業者側も貸金業登録が不要で柔軟な運営ができ、また利用者側も時間のかかる面倒な審査が不要で即日の資金調達が可能なため多くの需要があります。
ところが、ファクタリングの仕組みを悪用して闇金まがいの営業をしたり、ファクタリングから逸脱し金の貸付けを行ったとして逮捕される業者が増えています。
以前と傾向が異なるのが、個人運営や小規模運営ではなく、事業体としては比較的大きな企業も事件を起こし始めている点です。
本章では二件の逮捕事例を基に、最近の偽装ファクタリング事案を考察してみましょう。
ルネディオ株式会社事件
最初に取り上げるのは福岡で営業していたルネディオ株式会社による事件です。
博多警察署、春日警察署他複数の署による合同捜査により事件の捜査が進められた模様です。
逮捕されたのはこの会社の代表と役員ら4人で、彼らは元々法人向けのビジネスファクタリングを手掛けていました。
それがいつからか個人向けの給料(給与)ファクタリングにも手を出し、これが闇金であるとして今回の逮捕に至ります。
給料を受けとる権利を買取対象にする給料ファクタリングは、すでに金融庁に違法認定されているため警察が動きやすくなっています。
去年2020年にはほとんどのメジャーな給料ファクタリング業者は撤退していますが、なかにはこの業者のように続ける者も少なからず存在します。
利用者の側も、「給料の前借り」などと考えることで簡単に考えてしまうことがあり、手軽に利用できてしまうことから市場の需要も一定程度あるのが実際のところです。
これに呼応する形で違法なサービス提供をする業者は、今後も完全に無くなることはないでしょう。
本件のルネディオ株式会社の事件に関しては、経営陣に違法性の認識があったかどうかは不明ですが、給料ファクタリングは闇金とみなされてしまうわけですから、どちらにしても違法行為となります。
無登録で貸金業を営み、しかも違法な高金利で金を貸し付け利息利益を得たとしての逮捕劇でした。
事件の取材では被害者へのインタビューも行われており、本人も高額な手数料については認識していたようです。
しかし切羽詰まると目先のことしか見えなくなるのでしょう。
この業者と取引をしてしまい、手数料の精算(実質の返済にあたる)ができなくなってしまいます。
「会社にばらす」と脅されしばらくはなんとか返済しますが、それもできなくなって弁護士に相談したようです。
このように金融のリテラシーが低い人を狙った違法な営業は無くなることはありませんので、今後も警察による給料ファクタリング業者の逮捕事案は出てきそうです。
一般社団法人ハートフルライフ協会事件
次は個人向けではなく法人向けのビジネスファクタリングに偽装して貸金業を営んだということで、一般社団法人の代表理事他6名が逮捕された事案です。
事件の概要としては、法人向けのファクタリングを手掛けるハートフルライフ協会という事業者が、その運営の中でファクタリングサービスを提供したものの、その実態が金の貸付けであったというものです。
数年にわたり、中小企業の経営者を中心に約20億円を貸し付け、4億円ほどの利益を得たとされています。
利用者は建設業や運送業など、ファクタリングと相性の良い業界が多かったようです。
利用者に対しての説明の中ではノンリコースである旨の説明をしていたのに、実際には精算の期日に手数料が回収できないと、執拗な督促を送り債権額よりも高額な支払いを強要したとされています。
こうした行為が貸金業であるとみなされ、違法な高金利で金を貸し付けたとして出資法違反の容疑で逮捕に至りました。
逮捕された6人は今のところ容疑を否認しており、貸金ではなく正規のファクタリングであると主張しています。
本件の特色としては大きく二点を挙げることができます。
一つはノンリコースの扱いです。
ノンリコースとは売掛先の倒産などで支払いを受けられない時でも、債権譲渡企業に責任を負わせない形態をいいます。
支払い不能の解釈をどのように設定していたかは不明ですが、何らかの事情で売掛先から支払いがなされないケースで、債権譲渡企業に債権の買戻しなどを強要していたと推測されます。
債権の買戻し特約などが付きノンリコースでない取引となると、それは債権を担保に金を貸し付ける行為(売掛債権担保融資)とみなされ、貸金業の登録をした業者でなければできない行為として扱われます。
法人向けのファクタリングを提供していたとしても、やり方によっては貸金業法に触れる行為となることもあるので、サービス提供側はコンプライアンスの順守が求められます。
ただ、ハートフルライフ協会が利用者に送り付けた書面を見ると、およそ真っ当な企業が使う表現ではない脅迫性のあるものでしたから、法令順守の意識はそもそも低かったのだろうと推測できます。
二つ目は、一般社団法人という外観上は品格のある事業体だったため、利用者側がある意味安心してしまい、悪質性を見抜けなかったのではないかと考えられることです。
一般社団法人は非営利法人であり、儲けを追及する株式会社よりも信頼性が高いのが特徴です。
この性質を利用して反社勢力などが一般社団法人を立ち上げ、グレーなビジネスをやりやすくするための隠れ蓑に利用することもあり、問題視されています。
法令に何の根拠もない「協会」という名称もこれを補う役目を果たしたのではないかと推測されます。
まとめ
本章では最近確認されたファクタリング業者の逮捕例を二つ取り上げて見てきました。
法人格を持ち見た目にしっかりしていそうな業者でも、このように事件を起こすケースが増えているので、相手の企業規模が大きければ安心できるとは必ずしも限りません。
まず、給料ファクタリングは現在では闇金認定されているので、利用は避けなければなりません。
またノンリコースの扱いについては債権の買戻し規定があれば貸金業の無登録業者は行うことができないので、利用を避けるべき業者であることが分かります。
利用する側もファクタリングについて正しい知識を得て、事件に巻き込まれないように自己防衛が求められます。